🎙 Cardano Community · X Space 詳細まとめ

ZK ウォレット復旧・Gnark×WASM の死闘
耐量子暗号・Orion Fund・そして「ビジョン」論

Charles Hoskinson を軸に、Cardano・Algorand・Draper のキーパーソンが集まった長時間スペース。技術の深部から事件対応、投資戦略、マーケティング哲学まで ── できるだけ詳しく再構成しました。

🗓 2026年7月 👥 登壇者 多数 ⏱ 長時間スペース 🧵 技術系スペース

まず結論だけ

3行でいうと

① 技術は「もう出来ている」

Cardano 上で Groth16 証明を検証でき、ブラウザで ZK 証明も生成可能に。Charles 曰く「技術的・開発体験的な問題はもう終わった。残るは“流通(distribution)”の課題」。

② 業界は“統合”フェーズへ

Algorand CTO の Bruno が飛び入り参加し、耐量子暗号(Falcon・格子暗号)での協業を議論。トライバリズム(部族主義)を越えて、チェーン横断で標準を作る流れ。

③ 勝ち筋は「ビジョン」

「me too(うちも高TPS)」では勝てない。Steve Jobs や Elon Musk のように“世界がどう変わるか”という物語で人を惹きつけ、3〜5社のユニコーンを出すのが目標。

誰が話していたか

主な登壇者

Cardano を中心に、他エコシステムのキーパーソンも飛び入りした豪華な回でした。

C
Charles Hoskinson
Cardano / IOG 創設者
P
Phil
ZK / WASM 実装リード
B
Bruno Martins
Algorand Foundation CTO(元IO)
A
Alex
Cardano Foundation 系
E
Esko
古参コミュニティ(2021〜)
M
Micro / Riley / Luca
エンジニア陣
H
ホスト & コミュニティ
進行・質問者・被害者相談

Topic 1 · 本スペースの目玉【特集】

🔐ブラウザで動く ZK「ウォレット所有証明」アプリ

Cardano で初の実用的な ZK(ゼロ知識証明)アプリ。秘密鍵を一切明かさずに、シードフレーズ(24単語)から「このウォレットは自分のものだ」と証明できます。Phil 曰く「僕が知る限り Cardano 上での ZK の初の意味ある実用例。かなり誇りに思っている」。

💥 「SecondFi 事件が生んだアプリ」なの? ── 半分YES、でも大事な補足

引き金(トリガー)は事件:鍵が漏れた資金を今すぐ本人に返す必要があり、「今週これをやらねば」となった直接の理由が Second 事件でした。

でも“本質”は事件より前からの汎用アイデア:Charles 曰く「これは Glacier Drop とは無関係。もっと抽象的な問い ── 24単語からウォレットの導出パスをコントラクト内で復元できるか ── であって、どんな CNT・どんな資産でも使える“証明可能性”の仕組みだ」。

だから応用が“爆誕”:ブリッジ、再利用可能な DeFi、カストディアル・デッドマンスイッチ=相続(使わなくなった/亡くなったら資産がコントラクトに集約され、別のクレデンシャルで引き出す)、任意資産の所有証明、そして耐量子アドレスへの安全な移行まで。事件は“産みの苦しみ”だったが、生まれたのは事件より遥かに大きい汎用プリミティブ ── いわば「災い転じて福となす」というのが実態です。

何をするアプリか

  • 目的:秘密鍵が漏洩していても、シードフレーズ(マスター秘密鍵)から所有を証明して資金を取り戻す。
  • 仕組み:「マスター秘密鍵を持っていて、それが当該クレデンシャルへ導出される」ことを示すゼロ知識証明を生成。公開鍵も署名も明かさない。
  • 状態:すでに pre-prod(テストネット)で公開。資金をロックし、証明を作って請求(claim)まで、自分のPCで一連の流れを試せる。
  • 波及効果:オンチェーンで Groth16 検証ができると、ブリッジ設計再利用可能な DeFi パターンなど応用が一気に広がる ── 「これは小さな話じゃない、莫大なユースケースが開ける」(Charles)。

なぜ「鍵が漏れても」本人だけが取り戻せるのか(FAQ)

「秘密鍵が漏れたなら、シードフレーズもバレるのでは?」── 多くの人が抱く疑問。答えは No。関係は一方通行だからです。直感は“矢印の向き”が逆になっています。

🌳 鍵は「1本」じゃなく「木」

シードフレーズ(24単語)   ← 根っこ=マスター秘密鍵
      │  一方通行の変換(ハッシュ)
      ▼
  アカウント鍵
      │
      ▼
 各アドレスの署名鍵      ← 葉っぱ=取引に署名する鍵
      │
      ▼
  公開鍵 / アドレス

根→葉は作れる。でも葉→根は戻れない(一方通行)。だから葉の鍵を1本知っても、根っこ(シード)は逆算できません。

🔎 漏れるのは“葉っぱ”の鍵

署名や漏洩で攻撃者に渡るのは、木の一番下の葉っぱの鍵シードフレーズ自体はチェーン上に一度も現れません(署名にも公開鍵にも含まれない)。だから ──

🔴 攻撃者が持つのは
葉っぱの鍵だけ → そのアドレスは盗めるが、シードには遡れない
🟢 本人が持つのは
シード(根) → 全部の鍵を作れる = 本物だと証明できる

🍳 たとえ話:レシピ本と料理1皿

シードフレーズ = 秘伝のレシピ本。葉っぱの鍵 = そこから作った料理1皿。料理を1皿食べても、レシピ本全体を逆算で復元することはできません。だからこのアプリは「私はこの鍵を導出できる“根っこのシード”を知っている」ことを、シードを見せずに証明する ── 葉の鍵しか持たない攻撃者にはこの証明が作れず、本人だけが資金を取り戻せるのです。

⚠️ 細かい補足:hardened / soft 派生の弱点(Bruno が触れた話)

鍵導出には hardened(強化)派生soft(ソフト)派生 があります。ソフト派生では、ある拡張公開鍵その子の秘密鍵の両方が揃うと、親の秘密鍵を1段だけ遡れてしまう既知の弱点があります(スペースで Bruno が「hardened/soft の話」に触れていたのはこれ)。ただし、それでもシードそのものまでは到達できません。厳密な安全性は各ウォレット実装の派生方式に依存します。

性能スペック(K21 の場合)

60秒
ブラウザでの証明生成時間
4秒
デスクトップアプリでの証明時間
~2GB
1回の証明に必要な proving key
16
ブラウザ配信で使う Web Worker 数

技術スタック

回路・証明ロジック

証明を構成するロジック、制約(constraints)、回路そのものを、Go 言語で記述。フレームワークは Consensys の Gnark(“Snark”のもじり)。これを WASM にコンパイルしてブラウザで動かす。

  • コア回路の原型は Charles が Go で執筆
  • 証明時間の実用化は Phil が担当
  • 方式は Groth16(証明サイズが小さくオンチェーン検証向き)

配信アーキテクチャ(Cloudflare)

各ユーザーが約 2GB の proving key を必要とする。だが多くのブラウザは 2GB をメモリに保持できない。そこで:

  • デスクトップ版:インストーラを落とせばローカルで4秒
  • ブラウザ版:Cloudflare R2 から 2GB をチャンク分割してストリーミング
  • それを 約16個の Web Worker に流し込んで並列処理

🌙 Midnight をやっている人向けメモ

ここで効いてくるのが「大きい proving key × ブラウザの4GBメモリ上限」という、クライアントサイド証明生成に共通する壁です。Midnight もブラウザ側で証明を作る設計なので、この“重い鍵をどうブラウザに載せるか / どう並列化するか”という論点は直接刺さります。

「Gnark ベースではない」= どういう意味? ── ZK 証明を作るには“工具セット(ライブラリ)”が要ります。Gnark はその一つ(Consensys 製・Go 言語)で、今回の復旧アプリはこれで作られている。だから Charles のパッチも「Gnark 用の部品」。一方 Midnight は別の工具セット(独自言語 Compact + 独自の証明システム)を使っています。

🚗 たとえるなら:どちらも「車」だけど、片方はガソリン車(Gnark)、もう片方はディーゼル車(Midnight)「重い荷物をどう運ぶか」という悩みは同じでも、ガソリン車用のエンジン部品はディーゼル車にそのまま取り付けられない。つまり ── アイデア(4GBをどう回避するか)は参考になる ✅ / でもパッチ自体はそのまま流用できない ❌。Midnight では作り直しが要る、ということです。

K21 と K20 ── セキュリティ命題のトレードオフ

回路サイズは現状 K21(=2²¹ の制約規模)。セキュリティ命題を「マスター秘密鍵」から「クレデンシャル/コインレベルの鍵」に緩めれば K20 まで下げられる。これは Thomas Velkopf が「安全なセキュリティ前提」として推奨した緩和策。ただし今回は保守的に K21 のまま採用している。K を1下げれば証明はさらに軽くなるが、Charles は「あえて K21 で回した」と説明。

Topic 1-B · あなたが一番気になっているやつ

🧩Gnark × WASM「4GBの壁」問題は解決したのか?

結論:Cardano 内では“解決済み”で本番稼働中。

Charles が Gnark 本体に当てた prove-stream vendor patch によって、K21 のブラウザ証明が現実的な時間で回るようになった。この復旧アプリ自体がその実例。

ただし:Gnark 本家(upstream)へのマージはこれから。

司会「本家ライブラリにコミットして、受け入れられるか試せる?」→ Charles「やってみる(I'll give it a go)」。現時点では自社の vendored patch という位置づけ。

何が問題だったのか

  1. 32GB前提の設計 vs. WASMの4GB上限。 元の証明器は 32GB のメモリに証明を書き込む設計だった。ところが WebAssembly(wasm32)は線形メモリが約4GBに制限される。K21 の proving key と MSM/FFT のワーク領域が 4GB に収まらない。
  2. シャーディングを試みる。 4GB制約に合わせて Web Worker でのシャーディング構成を組んだ。しかし「いくつか問題があるのに気づいた」。
  3. Gnark 本体にパッチ。 そこで Charles が Gnark(スペースでは “geosnark” と発音)に直接パッチを当て、「こう直せば解決する」という形にした。「解き方を見つけるのに少し時間がかかった ── たぶん土曜の深夜1時半くらいだった」。
  4. 後で判明したオチ。 実は Gnark の GitHub には、この WASM 問題に長年みんなが苦戦している“メガスレッド”が存在していた。Charles のパッチは、その大きな取り組みが目指していたことを既に実現している高品質な解法だった ── 本人はそれを知らずに、限られた時間の中でただ解いていた。
「narc(Gnark)のリポジトリには、これを WASM で動かそうと苦戦してきた人たちの巨大なメガスレッドがある。君のパッチは、その膨大な努力が本質的にやろうとしていたことを、既にやってのけている ── とても質の高い解決策だ。」
「知らなかったよ。ただ解かなきゃいけなかったんだ。時間が限られていたから。」 — 司会 と Charles Hoskinson の掛け合い
技術背景メモ(スペース外の一般知識で補足)

Go を WASM ターゲット(GOARCH=wasm)でビルドすると wasm32 になり、線形メモリは 32bit アドレス空間 ── すなわち最大 4GiB に縛られる。2²¹ 規模の Groth16 では、proving key に加えて MSM(多重スカラー倍算)や FFT のための一時バッファが大量に必要で、素直に確保すると 4GB を超えてしまう。これが「ブラウザで大きな回路の証明を作る」際の、Gnark に限らず広く知られたボトルネック。

Charles の prove-stream 系パッチは、この巨大な計算をストリーム的に分割して 4GB 枠に収める発想と読める(+ Web Worker 並列化)。正確な実装差分・数値・PR の可否は、今後の Gnark へのアップストリーム提案と各プロジェクトの公式情報で確認を。

💡 なぜ “これ” が耐量子マイグレーションに効くのか

このアプリの本質は「署名や公開鍵ではなく、シードフレーズから所有を証明する」点。将来、格子暗号などの耐量子アドレスへ移行する局面では、これがそのまま使える ── なぜなら、量子計算機が十分に進めば公開鍵/署名から秘密鍵を割り出せてしまうが、シードフレーズには公開鍵も署名も存在しないため攻撃対象がない。つまり「安全な耐量子移行」の土台になる、というのが Phil の説明でした。

Topic 2 · なぜこの技術が必要だったか

🏭「Second」事件、KYCの有無、そして“難しい方の道”

今回の ZK アプリは、鍵が漏洩した資金を正しい持ち主に返すために生まれました。しかし話は「ハッピーパス」と「アンハッピーパス」に分岐します。

事件の経緯

  • 発端:販売元(Attain)が廃業。個人情報が漏れた/従業員が持ち出した可能性があり、償還アカウントを復元しうる at-rest の秘密が攻撃者に使われる懸念が生じた。
  • 状況:マルチシグ(複数人がアクセス可能)で管理されていたため、商業的には「償還はまだ完了していない」段階。販売元→本人単独管理ウォレットへの最終段階の移転が残っていた。
  • 対応:資金を「別の倉庫(新しい償還先)」へ移し、ユーザーには移動先の変更をお願いした。
  • 猶予:一定期間(10年)取りに来なければ取引は無効となり返金される仕組みも用意。

🛋 Charles の「ソファのたとえ」

荷積みドックにソファ(資産)を置いていたら、ドックの鍵が壊れて誰でも入れる状態に。トラックで乗り付けて盗まれる前に、「倉庫Aから倉庫Bへ移して、取りに来る場所を変えてもらう」のが今回の対応。移動は面倒だが、盗まれるよりマシ ── という発想。「10年ですよ。普通のビジネスは30日。それでも“インターネットには勝てない”」。

ハッピーパス と アンハッピーパス

🟢 ハッピーパス

シードフレーズを保持していて、ホワイトハットが資金を復旧できているケース。ZK 復旧アプリで受動的・ノンカストディアルに請求できる。「スマートコントラクトだ。万歳」。

🔴 アンハッピーパス

シードを失った/ブラックハットに取られたケース。所有を証明できないのに、資金は Emurgo かホワイトハットの管理下にある ── 「これは大問題だ」。

“なぜ Charles 自身の Attain 償還では問題が起きなかったのか”(KYCの差)

日本での Attain によるクラウドセールでは全員に KYC を強制していた。パスポート・銀行口座情報・実在の身元があり、約 9,400 人分を MWE / BDO が監査して照合済み。だから「私は◯◯だ」と名乗る人が来ても、KYC プロファイルと突き合わせて本人確認 → 再 KYC → 送金、という手順が踏めた。

ところが今回のウォレット保有者は誰も KYC を通していない。だから「それが本当に本人のウォレットか」を証明できない。しかも当事者は当初この仕組みに同意していなかったため、そもそも法的・ガバナンス的にも難題。「誰が判定者(decider)なのか」「アンハッピーパスの統治構造は何か」が未解決。

規模は「数百万ドル程度」と比較的小さいが、丁寧に第三者を使って処理すると 5〜10 年かかる見込み。「事実上、新しい aid of voucher(償還プログラム)だ」。

🪪 だから Midnight Passport

Midnight Passport なら「あるアカウントが誰のものか」を今は明かさず、後から証明できる。ウォレットに署名しておけば「これは Phil / Esko のウォレットだ、本人しか署名できない」と言え、否認不可能性(non-repudiation)を持つ。もし後で鍵が漏れても、後から「確かに自分のだった」と証明できる ── 「これが Midnight Passport の数ある応用の一つ」。

Topic 3 · よくある誤解

❄️Glacier Drop は“受動的プロセス”

宛先は変えられない

Glacier Drop はスマートコントラクトによる自動・受動的な配布。登録した宛先へ1年を通して送られる。「離婚したから宛先を変えて」等には応じられない ── 介入を許せば財団が毎回個別対応することになる。

Night は“無料”だった

誰も対価を払っていないエアドロップ。ICO のような商業取引ではないため、「約束された引き渡し」の期待とは性質が異なる、という整理。フィルタは冒頭の制裁リスト(OFAC)チェックのみで、Chainalysis で一度スイープ。

Code is Law

コントラクトに書いてある通りに動く。「受動的な自動プロセスを作っておいて、それが仕様通り動いたことに文句は言えない。ウォレットを失えば請求も失う ── 分散化の避けられない現実」。

Topic 4 · チェーン横断の協業

⚛️耐量子暗号 × Algorand ── Bruno 飛び入り

Algorand Foundation CTO の Bruno Martins(元 IO、2021〜22 頃まで在籍)が飛び入り。格子暗号(lattice)を軸に、エコシステムを越えた共同開発が熱く語られました。「良い IO エンジニアは Algorand へ送る ── John Woods もそうだった」という冗談も。

Falcon(格子ベース署名)

Algorand は 2022年から State Proofs で Falcon を使用。今後はネイティブアカウントも Falcon 署名で認可

  • アカウントモデルなので Falcon-1024 を使用
  • UTXO 側は半分サイズの Falcon-512 が効率的かも、と Bruno が提案

なぜ格子なのか

ハッシュベース(例:SPHINCS)は代数的性質に乏しく、しきい値署名などに巨大な仕掛けが要る。格子は楕円曲線より代数的に豊かで、準同型暗号・MPC・しきい値署名まで“万能”に扱える。

クリプト・アジリティ

どのスキームが将来生き残るか不明 ── 量子耐性はあっても古典的に脆いこともある。だから crypto agility(暗号の差し替え可能性)を性質として持たせる。TLS のハイブリッド署名と同じ発想。

共同開発したい“スタック”

  • 耐量子 VRF:Silvio Micali が VRF+暗号くじ(cryptographic sortition)の originator。その耐量子版を共同で。Chris が来年初頭に論文を出すかも。
  • 格子ベース folding:Dan Boneh と Microsoft Research(Srinath)の論文をベースに、IO はtensor CCS + CUDAで GPU 最適化した超高速 folding を実現しつつある。
  • proof embedding(外側証明):アウター証明を Falcon で埋め込む案。Dan Boneh は格子証明サイズがあと半分〜1/4になる余地を見ており、10〜20KB の証明も視野。
  • 形式検証:Rust リファレンス実装+ Agda / Lean のブループリントで、複数機関共同の“正典ライブラリ”に。F* で TLS を検証した Everest プロジェクトの知見を活用。
  • 基盤:Linux Foundation の Nightstream で latticefold を Rust 実装済み。Stanford なども巻き込むコンソーシアム型。module SIS 等の数学問題の形式化も検討。
「自前で暗号を書けば誰かが必ずミスる。特に ZK ではバグは致命的だ。だからみんなを集めて、高度に最適化された標準リファレンスライブラリを作り、NIST に持ち込んで ASIC 化まで見据えるのが理にかなっている。」 — Charles Hoskinson
鍵導出(HDウォレット)という難題と、FHE の夢

格子暗号は Shor 耐性がある反面、従来の hardened / soft 鍵導出(24単語からの派生)が非自明。どのスキームが勝つか未確定なので、まずはスキーム非依存(agnostic)な導出やハードウェアウォレット標準を、チェーン横断で揃えたい ── 相互運用性のため、各社が勝手に標準を出す前に足並みを揃える方針(Algorand はネイティブ Falcon アカウントを出す一方、HW ウォレットは他と揃うまで待つ)。

さらに先の夢として FHE(完全準同型暗号)。オンチェーンの“鍵生成ボックス”を FHE で作れば、ブロックチェーン自身が秘密鍵を保持できる(公開だが秘密のまま)。復号せずに署名や鍵ローテーションが可能になり、HDウォレットや復元フレーズへの依存を根本解決しうる。トレジャリーが第三者資産(BTC等)を保持する構想とも接続。ただし OpenFHE を検討した結果、実用化にはあと約1000倍の計算削減が必要、との見立て。

Topic 5 · 投資戦略

🚀Orion Fund と「3〜5社のユニコーン」

Draper 系の Orion Fund の申請がこの日締切に。Cardano の“ベンチャー構築の中心地”になり得る、という議論。Orion Fund / Comeda Labs(ベンチャースタジオ)/ Draper Dragon / Draper University が一つの宇宙を作り、約50億ドルの外部 LPの呼び込みを狙う。

アンカー投資を作る

新ファンドは「何のファンドか」を示すアンカー案件が要る。Cardano に philosophical / ブランド的に固定された案件(容易に multi-chain へ逃げない)が理想。「起きたら 90% のアプリが別チェーンへ移っていた、が最悪」。

候補となる“物語”

RealFi(マイクロファイナンス/ベア相場向き)Pogan(Bitcoin DeFi)Midnight ── 戦略・チーム・耐える経済環境が異なる、差別化された勝ち筋を3〜5個。各社が10億ドル規模に到達すれば汚名を返上できる。

拠点(footprint)戦略

アルゼンチンのオフィスが大成功。Circle(Jeremy Elari)との接点も生まれ、20以上のイベントを開催。同様の拠点を Miami / Austin / NY / シリコンバレーに作り、ハッカソン・EIR・ショーケースの常設拠点に。

🦣 余談:Charles の VC「C Fund」の最大リターンは仮想通貨じゃなかった

C Fund の最大の投資先は Colossal ── ウーリーマンモスを復活させようとし、ダイアウルフも復活させたバイオ企業。低いバリュエーションで入り、いまや120億ドルの評価。「アンカー投資は Cardano 関連であってほしい。哲学的・ブランド的に Cardano から離れられない理由を持つ案件を」。

「シリコンバレーでは今『なぜ Cardano で作るの?』と言われる。これは技術の問題ではなく“流通(distribution)”の問題だ。Orion が生きるのはその世界。彼らは StarStream を作ったりはしないが、認識の問題を解く会話には加われる。」 — Charles Hoskinson

Topic 6 · 白熱した本論

💡「マーケティング」の正体は“ビジョン”

「もっとマーケティングを」というコミュニティの声(Alpha 氏)に対する、Charles の長い回答。まず一連の「どっちが大事?」質問で揺さぶりをかけます。

「どっちが大事?」── KPI に正解はない

TVL ⇄ ブロックあたりTX数

どちらを重視するかで戦略が変わる。

dApp の数 ⇄ 上位5 dApp の価値

量か、質か。

ノード数(分散度) ⇄ TPS

分散性か、性能か。

1コードベースに10社 ⇄ 3コードベースを3社

統合された多様性か、実装の多様性か(Haskell/Go/Rust ノード)。

論点はいずれも「正当な意見の相違」がある。「マーケティングを」と言う人は、実は自分の頭の中の“特定の答えのセット”を誰かに拡散してほしいだけのことが多い。だからまず governance で“核となる KPI と5年後のゴール”をコミュニティ合意する ── それが効果的なマーケティングの前提。

Charles のマーケティング哲学

  • 終わりから始める(start with the end in mind):3年後に大型ラウンドを閉じた前提で、逆算してマイルストーンと KPI を並べる。ベンチャースタジオ CEO に必須の2条件は「collective delusion(人を巻き込む確信)」と「end in mind」。
  • me too では負ける:「うちも高TPS/スマコン対応」は差別化にならず価格の底辺競争に。SUI が Solana より速く優秀でも Solana の採用を超えられない例。
  • ビジョンが実行者を引き寄せる:「execution は vision の下流。優れた執行者はいつでも雇える。稀なのは、心から参加したくなるビジョンの方だ」。
  • 原点回帰:Cardano を「ただの通貨」以上のアイデンティティ・政治的ムーブメントに。10年で築いた legacy・分散ガバナンス・EUTXO・Ouroboros は買えないし複製できない

🍎 Steve Jobs が1997年にやった3つのこと

① 旧 Mac を Stanford 博物館へ寄贈し「過去中毒」を断つ / ② 全社を iMac に集中 / ③ “Here's to the Crazy Ones” 広告でコンピュータを“コモディティ”から“ライフスタイル製品”へ。ロゴ一つで 20〜30% 高く売れる利益構造を作り、iPod へ再投資 → 数兆ドル企業に。「Cardano も同じ転換が要る」。

🚀 Elon Musk と SpaceX ── 「ビジョンの人」

Boeing が 30万ドル+福利厚生を提示しても、エンジニアは年4.2万ドル・福利厚生なしの SpaceX を選んだ ── 「火星に行くチームの一員になりたかった」から。Musk が勝ち続けるのは、彼が“ビジョンの人”で、実行は Gwynne Shotwell らに任せているから。「Cardano も、勝てば人類にとって良いことが起きる、というビジョンで戦うべき」。

🤖 「Anthropic vs OpenAI」のたとえ(Charles談)

Charles は「原則ベースのアプローチ」の例として、Anthropic を挙げました ── 「最初から AI 構築の厳格な哲学を持ち、それに従った。OpenAI や他社が“弾むボール”を追う中、Anthropic は淡々とミッションを追い、リリースごとに追い上げ、ついに10倍の規模の相手を凌駕した。彼らは AI 憲法(constitution)を作った ── 我々も憲法を持っている。そこに重なりがある」。

「誰一人として全員より賢くはない。何百万人が集まって下す決定に勝てる個人はいない。だから僕はガバナンスの設計にこだわる ── 群衆の叡智を束ねれば、残りはただの実行だ。」 — Charles Hoskinson

Topic 7 · 注目アプリ

🏦RealFi ── DeFi の“ETF版”

Phil が「今いちばん楽しみ」と語ったアプリ。能動的なポジション管理が要らない、受動型の金融ヴィークル。「DeFi のモダンなメタは、もはや Uniswap でのデイトレじゃない ── 資金の99%は低リスク・長期のイールド」。

今の DeFi の“メタ”

Morpho Vault、Ethena、stableswap プールに置いておくのが主流。RealFi はこの受動型ヴィークルを Cardano に。Athena(Ethereum で成功)の Cardano 版というイメージ。

Impermanent Loss からの解放

2トークンで LP を組むと価格乖離で“非永続損失”が発生 ── だが実質は永続的な損失。RealFi は管理不要の Vault 型で、清算やリバランスの心配なく、家族にも勧められる設計。

運用の中身

オンチェーンの許可リスト戦略(Alchemix / Morpho / USDC・T-bill イールド共有等)+オフチェーンの private credit を、RealFi の運用チームが管理。

Topic 8 · 統治の設計

🏛ガバナンスと“executive function(執行機能)”

時間軸を分ける

Orion のような3〜5年案件と、Token2049 のような数ヶ月先のイベントが同じ意思決定空間に混ざっている。長期(研究・VC)と近期(実行)を分離すべき。研究や耐量子の成果は 2030 年頃に実る。

寡頭制のリスク

疑似連邦的な運営は“ゲーム”されやすい。少数が水面下で影響力を持てば「気に入らないと二度と資金が付かない」状態に。明示的な執行機能で民主的同意を入れ、オリガルキーを避ける。

匿名投票の導入

報復を恐れて投票を控える/自己利益でしか動かない(quid pro quo)問題へ、Midnight による private voting(匿名投票)を検討。Catalyst の一部を Midnight へ移す構想も。

「会話の場を X から移す」構想

グランドスタンディング(パフォーマンス的な主張合戦)になると会話は自己破壊する ── レイジベイトを煽るプラットフォームは合意形成に不利。そこで ADA 保有者だけが入れる Cardano 専用チャンネルへ議論を移す案。Midnight の Discord には 49,000人がおり、Guild.xyz や collab.land 相当のツールを内製して、3〜6ヶ月で走り出したい考え。

「アドバーサリアル(対立的)であっても、それは特定の論点に限る。他の論点 ── ペンタッドや Draper ── では目線を合わせ、建設的に対話できる。Samsung と Apple が特許で殴り合いながら、片やメモリを供給し合うのと同じ。それが大人のやり方だ。」 — Charles Hoskinson(CF / IO の関係について)

なお Emurgo の“離脱”をめぐる翻訳差も話題に。英語では「ペンタッドから離れる」だが、日本語では「Cardano 創設エンティティであることから退く」と表現された、という指摘(※スペース内での言及であり、公式見解は各社の一次情報を確認)。IO 自身もベンチャースタジオ型へ移行中で、Haskell ノードは来年別の担い手へスピンアウト予定。

Topic 9 · その他の名場面

🎬スペースで起きたこと

😢 ハッキング被害の相談

2017年から信じてきたリスナーが「今日30万 ADA 超が抜かれた、最悪の日だった」と告白。登壇者は「まずスペースで助けを求めるな(詐欺師が寄ってくる)、公式アプリ経由で DM を」と対応。「Second 事件の影響なら補償対象。フィッシング等の別要因なら補償は極めて困難」と率直に線引き。

🤝 “業界は統合フェーズ”というムード

Algorand の Bruno、CF の Alex らが同席し、ホストは繰り返し「トライバリズムを越えた協業こそ価値」と強調。「同じ North Star さえ共有できれば、細かな意見の相違は区画化(compartmentalize)できる」。

🧠 B2C か B2B か(リスナーの問い)

あるリスナーは「Jobs も Musk も SpaceX 以外は B2C。今の消費者は ADHD 的で説得が難しい。だから B2B/エンタープライズの相互強化ループ(Tether×Solana、Amazon×OpenAI 型)で、持株会社間の収益循環からユニコーン評価を作れないか」と問題提起。

🌐 Cloudflare の使いどころ

「Vercel? いや Cloudflare R2 を使った」── proving artifacts(証明成果物)の配信に R2 を採用し、2GB を細切れにして 16 の Web Worker へストリーミングする実装が語られた(まさに本ページと同じ Cloudflare 上で公開)。

補足

📖用語ミニ辞典

Groth16

非常に小さいサイズで検証できる ZK-SNARK 方式。オンチェーン検証に向く。

Gnark

Consensys 製の Go 言語 ZK フレームワーク(“Snark”のもじり)。今回の回路はこれで記述し WASM 化。

K21 / K20

回路の制約規模(2ᴷ)。K を下げるほど証明は軽くなるがセキュリティ前提が変わる。

proving key

証明生成に使う鍵。今回は約2GBと巨大で、ブラウザのメモリを圧迫する。

WASM 4GB 上限

wasm32 の線形メモリは最大4GiB。大きな回路の証明生成のボトルネック。

Web Worker

ブラウザで並列処理を行う仕組み。今回は約16個で証明を分散処理。

Cloudflare R2

egress 無料のオブジェクトストレージ。巨大 proving key の配信に使用。

格子暗号(Lattice)

量子計算機にも耐性がある暗号の一群。Falcon はその署名方式。

Falcon-512 / 1024

NIST 標準の格子ベース署名。512 は軽量で UTXO 向き。

folding / latticefold

証明を畳み込んで効率化する手法。IO は tensor CCS+CUDA で GPU 最適化。

FHE(完全準同型暗号)

暗号化したまま計算できる技術。「チェーンが鍵を持つ」構想の核。

VRF

検証可能なランダム関数。合意形成に使う。耐量子版を共同開発する構想。

Midnight / Passport

プライバシー特化のパートナーチェーン。選択的開示で ID を後から証明。

non-repudiation

否認不可能性。「本人しか署名できなかった」と後から証明できる性質。

Impermanent Loss

2資産の価格乖離で LP に生じる損失。RealFi はこれを回避。

mercenary liquidity

より良い利率へ即移動する“傭兵”資金。買った TVL は数十分で逃げる。

Pentad(ペンタッド)

Cardano を支える主要5エンティティの体制を指す言い方。

EIR

Entrepreneur in Residence。拠点に常駐する起業家。

一次情報

📄元の書き起こし(全文)

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